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2025年9月28日(更新:2025年9月28日)
「食」は日々の生活に欠かせない身近な存在でありながら、健康・環境・持続可能性といった世界的な課題とも直結しています。近年、バイオテクノロジーの進歩によって、その「食」の姿が大きく変わり始めています。本記事では、理系の知識を持つ学生にこそ知ってほしい“食品×バイオ”の最前線を紹介します。
食品×バイオテクノロジーの成果と可能性
世界的な人口増加や環境問題、健康志向の高まりを背景に、食品分野でもバイオ技術の応用が急速に広がっています。研究室の中にとどまらず、すでに商品や社会に実装され始めているのが大きな特徴です。
・ゲノム編集や遺伝子組換え作物
ジャガイモの芽や皮には天然毒素が含まれますが、ゲノム編集によって毒素を作らない安全な品種が開発されています。遺伝子組換えでは、他の生物の遺伝子を導入することで作物に新しい性質を付与できます。代表例が「ゴールデンライス」で、ビタミンAを多く含むよう改良され、発展途上国の栄養不足解消を目的に作られました。
遺伝子組換え作物は1996年頃から海外で商業化が進み、日本では商業栽培は行われていないものの、大豆やトウモロコシなどを中心に飼料や加工用として輸入されています。
・オールドバイオ(発酵・醸造)
味噌や醤油に代表される発酵技術は、古くから食品づくりを支えてきました。近年では分子生物学やAI解析と組み合わせることで、発酵に関わる微生物の働きを精密に解明し、腸内環境を整える機能性食品や新しい素材の開発へとつながっています。
実際に、乳酸菌や麹菌の種類ごとの特徴を生かした商品開発や、発酵過程の最適化による品質安定化の取り組みも進んでいます。伝統と最先端が融合することで、食品の健康価値や多様な風味の創出といった新しい可能性が広がっています。
・フードテック(培養肉・代替肉)
フードテック産業の盛り上がりとともに、肉の代替となる食品の開発も加速しています。米国では植物由来の代替肉がファストフードチェーンで提供されるなど市場が急拡大。さらに、牛や鶏の細胞を培養して作る「細胞培養肉」が2023年に販売開始され、大きな注目を集めました。今後のフードテック市場は世界で700兆円規模に達すると予測されており、従来の食産業を大きく変える可能性があります。
食品とバイオテクノロジーの融合は、安全で栄養価の高い食や新しい食材を生み出し、私たちの食生活を変え始めています。
企業・研究機関の取り組み
食品とバイオの分野は、すでに企業や研究機関によって実用化に向けた取り組みが広がっています。
■食品メーカー
味の素が長年にわたるアミノ酸研究を基盤に、サプリメントや健康食品の開発、さらには医療分野への応用まで手がけています。キリンホールディングスも発酵技術を活かし、乳酸菌由来の「プラズマ乳酸菌」など免疫機能を高める素材の研究・商品化を進めており、基礎研究を消費者向けの商品へとつなげています。
■大学発のベンチャー
大学発のベンチャーも存在感を増しています。たとえばインテグリカルチャーは、東京大学発のスタートアップとして細胞培養プラットフォーム「CulNet System」を開発し、培養肉をはじめとする新しい市場の創出に挑戦しています。
■海外企業
さらに海外では、Beyond Meat や Impossible Foods といったフードテック企業が植物由来の代替肉を開発し、世界の外食・小売市場に普及しつつあります。
Beyond Meat はエンドウ豆由来の植物性タンパク質を用いたパティやソーセージを展開し、マクドナルドやKFCなど大手チェーンで採用されています。Impossible Foods は大豆由来の「レグヘモグロビン(ヘム)」を利用して肉らしい風味を再現し、アメリカ国内外のレストランやスーパーで幅広く販売されています。
■研究機関・大学プロジェクト
大学や公的研究機関でも基礎から応用に至る幅広い研究が行われています。例えば、農研機構(農業・食品産業技術総合研究機構)はゲノム編集による作物改良や食品機能性の評価に取り組み、国立研究開発法人理化学研究所(理研)では発酵や微生物を活用した新素材開発が進められています。こうした成果は民間企業との共同研究や国家プロジェクトを通じて、社会への実装に結びつけられています。
企業や研究機関の取り組みによって、食品産業は食料供給にとどまらず、健康の増進や環境課題の解決といった社会的役割を担う産業へと広がりを見せています。
関連する業界や職種
食品×バイオの分野に関わる業界は幅広く、理系の知識を活かせる職種も多様です。
1、食品・飲料メーカー
・加工食品や飲料の研究開発を行う業界。
・味の素やキリンのように、長年の研究をもとに機能性食品や健康素材を開発しています。
【職種例】研究開発、品質管理、分析評価、商品企画。
2、フードテックベンチャー
・培養肉や代替タンパク質、AIとバイオを掛け合わせた新素材など、最先端の取り組みを進める企業。
・企業例:(国内)インテグリカルチャー、ダイバースファーム/(海外)Beyond Meat、Impossible Foods など。
【職種例】細胞培養研究、製品開発、プロセスエンジニア、データ解析。
3、農業・水産・畜産(一次産業)
・ゲノム編集や遺伝子組換えを用いた作物開発や養殖研究など、基礎研究から応用研究まで広がりつつあります。
・求人数は多くありませんが、大学や研究機関との共同プロジェクトなどで活躍の場があります。
【職種例】品種改良研究、栄養改善研究、フィールド試験。
4、研究機関・大学発プロジェクト
・食品や農水産分野の基礎研究から応用研究まで幅広く展開。
・民間企業との共同研究や国家プロジェクトを通じて成果が社会に実装されています。
【職種例】研究員、技術職、共同研究コーディネーター。
※マメ知識:食品×バイオ分野では、幅広い理系の知識が活躍!
食品×バイオ分野には、生物系だけでなく機械・電気電子など他分野の理系も関わっています。たとえば、培養肉の生産には食品機械の設計・開発や、自動化設備・センサーを活用した精密な制御が不可欠です。こうした異なる専門の知識が組み合わさることで、新しい食の技術が実現されています。
まとめ
食品×バイオの分野は、大手メーカーからベンチャー、一次産業や研究機関まで幅広く展開されています。研究開発だけでなく品質管理やデータ解析など多様な職種があり、理系の知識を活かせる場はどんどん広がっています。
生物・農学・化学の学生を中心に注目される分野ですが、機械系や電気電子系など他分野の理系も重要な役割を担っています。就職活動においては、研究や授業で培った学びを強みとして、未来の食を支えるキャリアへとつなげていきましょう。