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2025年9月22日(更新:2025年9月22日)
ロボットは工場の生産ラインを超えて、物流、医療、介護、サービス産業まで社会のあらゆる場所に広がっています。とはいえ「市場の規模はどれくらい?」「どんな種類がある?」「将来はどうなるの?」といった点は意外と知られていません。この記事では、日本におけるロボット市場の最新動向と事例を紹介し、理系各分野がどう活かせるのかを解説します。
日本のロボット市場と種類
日本はロボット大国として知られ、産業用ロボットの出荷額・輸出台数は世界トップクラスです。2025年上半期の統計では受注・生産・出荷額がいずれも前年同期比でプラスとなり、市場の回復が鮮明になっています。
さらに、グローバルインフォメーションの調査記事より、日本の産業用ロボット市場規模が 2024年に約 11.7億米ドル と評価され、2025〜2033年の間で年平均成長率(CAGR)約 9.8% により、2033年には約 27.1億米ドル に達すると予測されています。
ロボットの種類と活躍分野を整理すると、以下のように分けられます。
◆ 産業用ロボット
自動車・電機・食品などの製造分野で広く導入されています。溶接・組立・搬送だけでなく、食品加工では骨の除去や盛り付けなど繊細な作業も可能に。近年は人と並んで働ける「協働ロボット」の需要も高まっています。
※代表的な企業例
ファナック(FANUC):世界シェアトップクラス。本社は山梨で黄色いロボットが特徴的。
安川電機:アーク溶接・塗装ロボットに強み。福岡を代表するロボットメーカー。
川崎重工業:産業用ロボットのパイオニア的存在。
◆ インフラ・建設・農業ロボット
老朽化した橋やトンネルの点検ロボット、災害対応ロボット、農業の自動田植え機や収穫支援ロボットなど、人手不足を補う場面で活躍。建設業界では溶接や資材運搬ロボットの導入が進んでいます。
※代表的な企業例
クボタ:農業機械メーカー。自動運転トラクタや田植えロボットを開発。
小松製作所(コマツ):建設機械自動化・遠隔操作システムを手掛ける。
日立建機:建設現場の自動化・ICT施工を推進。
◆ 医療・福祉ロボット
手術支援ロボットや病院内搬送ロボットなど、医療機関でも導入が進んでいます。他にも介護支援ロボットは食事や移動を補助しており、人手不足の医療・介護現場を支える存在となっています。
※代表的な企業例
シスメックス/川崎重工業(共同開発):国産手術支援ロボット「hinotori」。
サイバーダイン:装着型ロボットスーツ「HAL」でリハビリ・介護を支援。
パナソニック:介護支援ロボットやベッドから車いすへの移乗支援ロボットを開発。
◆ サービスロボット
飲食店で普及する配膳ロボット(ネコ型が有名)や、商業施設・学校で活用されるソフトバンクの「Pepper」が代表例です。コミュニケーションや教育の場でも存在感を増しています。
※代表的な企業例
ソフトバンクロボティクス:「Pepper」「Whiz」など。
Preferred Robotics:家庭用の自律移動ロボットを開発。
富士ソフト:コミュニケーションロボット「PALRO」を展開。
進化を支える技術
日本のロボットを進化させている背景には、複数の技術革新があります。
理系大学生の様々な専門性が、下記のように活かされています。
・機械:アクチュエータやギア機構の設計、軽量化や耐久性の向上。
・電気電子:高精度センサー、長寿命バッテリー、低消費電力回路。
・制御工学:リアルタイム制御、自己位置推定やSLAM、複数ロボットの協調動作。
・ソフトウェア/AI:画像認識、音声対話、強化学習による自律行動。
・化学・材料:ソフトロボットに用いる柔軟素材、耐環境性のある新素材、次世代バッテリー。
・生物・医療:生体信号を読み取るバイオセンサー、リハビリ支援ロボットの設計。
・建築・土木:建設現場で活躍する自動施工ロボットや点検ロボットの導入環境整備。
特にAIや通信技術の進歩によって、配膳ロボットや介護支援ロボットといった生活に身近な分野だけでなく、産業ロボットの高度化、医療手術支援ロボット、インフラ点検ロボットなど多方面で実用段階に入っています。
今後の可能性と課題
日本のロボットは今後さらに生活に身近な存在になると考えられます。
・家庭や介護分野での普及拡大
配膳や掃除、移動補助など、人々の生活を直接支えるロボットが増加中。高齢化社会を背景に、介護現場での需要は特に高まっています。
・国産ヒューマノイドやソフトロボットの実用化
人と同じ環境で柔軟に動けるヒューマノイドや、ゴムやゲルなど柔らかい素材を活用したソフトロボットが研究段階から実用へと進んでいます。災害現場や医療、家庭内での応用が期待されます。
・AIとの融合による完全自律型ロボット
AIの進歩によって「決められた動き」から「状況に応じた判断」へと進化し、物流倉庫や建設現場、病院などで人と協調して働くロボットが現実になりつつあります。
一方で課題も少なくありません。導入コストは依然として高く、中小企業や介護施設などでは採算が合わないケースがあります。また、機械が人と共存する以上、安全性の確保は欠かせず、国際規格や国内法規制の整備が進められています。
さらに社会的受容性も大きなテーマです。人の仕事を奪うのではないかという懸念や、ロボットに頼りすぎることへの心理的な抵抗感も存在します。こうした不安を払拭し、「人とロボットが安心して共存できる仕組み」をどう作っていくかが、今後の大きな鍵になるでしょう。
まとめ
ロボットは製造業だけでなく、医療、介護、サービス、インフラなど日本社会の幅広い分野で導入が進んでいます。国産技術として「hinotori」や配膳ロボットが普及し、Pepperのようなコミュニケーションロボットも教育や商業の現場で存在感を発揮しています。
理系出身者は、自分の専門知識を活かして「どんなロボットを社会に届けたいか」を考えることができます。ロボットは学際的な分野だからこそ、多彩なキャリアの可能性が広がっているのです。