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2025年9月23日(更新:2025年9月23日)
理工系の就活生にとって注目度の高い「半導体業界」。スマートフォンから自動車、データセンター、AIに至るまで、現代社会を支える基盤となっています。
一方で、バブル期には世界シェアの8割以上を誇った日本が後退するなど、変動の激しい業界でもあります。今回は、半導体業界の歴史や世界・日本における市場動向、理工系が担う仕事の特徴、そして課題と今後の可能性について整理します。
半導体業界の歴史
半導体の歴史は1947年のトランジスタ発明から始まりました。1970〜80年代には日本企業がDRAMを中心に世界市場を席巻し、「半導体王国」と呼ばれた時代があります。NEC、日立、東芝などの国内メーカーが世界シェアを8割以上占め、日本経済の成長を象徴する存在でした。
しかし1990年代以降はインテル(米国)のマイクロプロセッサー、サムスン(韓国)のメモリ、TSMC(台湾)のファウンドリーが急成長。分業化が進む中で、日本は最先端の地位を徐々に失っていきました。現在は「設計は米国」「製造は台湾・韓国」「装置・素材は日本」という国際分業体制が定着しています。
※マメ知識:知っておきたい専門用語の解説
・DRAM:コンピュータの主記憶装置(メインメモリ)として広く使われる半導体メモリの一種。電源が入っている間だけデータを保持し、切れると消える「揮発性メモリ」です。高速かつ低コストで大容量化しやすいのが特徴。
・マイクロプロセッサー:複雑な計算および数学タスクを実行できる強力なコンピュータチップ。
・ファウンドリー:半導体の受託製造を請け負う企業。
世界市場の動向
半導体はAI、5G、EV、IoTなど新産業の基盤であり、需要は年々拡大しています。
世界市場規模は2025年に前年比+11.2%の7,009億ドルに達し、2026年にはさらに+8.5%成長して7,607億ドルに拡大するとWSTS(世界半導体市場統計)が予測しています。
特にロジックとメモリが二桁成長で市場を牽引し、AIやクラウド、先端消費者向け電子機器の需要が背景にあります。センサーやアナログも堅調ですが、伸びは中程度と見込まれています。
一方で、ディスクリート半導体、オプトエレクトロニクス、マイクロICは縮小傾向にあります。これは貿易摩擦や経済低迷による需要減や供給網の混乱が要因とされています。
地域別では、アメリカ(+18.0%)とアジア太平洋(+9.8%)が成長をリードし、ヨーロッパ(+3.4%)と日本(+0.6%)はやや低成長にとどまりますが、2026年には欧州と日本も成長が加速すると見込まれています。
しかし、その裏側で、米中対立や台湾有事といった地政学リスクは業界最大の懸念とされています。半導体の供給網が寸断されれば、世界経済に直結する影響を及ぼすため、各国が自国生産能力を高めようと投資を加速しています。
■各国の取り組み
・米国:IntelやマイクロンがCHIPS Actを背景に米国内の生産拡張を進めており、Intelはオハイオ州に数百億ドル規模の新工場を建設中。
・日本:政府がRapidusに累計1.7兆円超の支援を実施し、北海道千歳市で2nm世代の量産工場を建設。
・欧州:EUのEuropean Chips Actに基づき、Infineonやams OSRAMなどが数十億ユーロ規模の新工場投資を展開。
・韓国:サムスンが政府支援のもとで「半導体メガクラスター」構想を発表し、世界最大級の生産拠点を目指す。
このように、世界市場は拡大基調にある一方で、各国が安全保障と経済成長を背景に「国家戦略産業」として半導体投資を競い合う時代に突入しています。
※マメ知識:知っておきたい専門用語の解説
・ロジック:CPUやGPUなど、データを処理・制御する半導体。
・ディスクリート半導体:トランジスタやダイオードなど、単機能しか持たない個別の半導体素子。
・オプトエレクトロニクス:LEDやイメージセンサーなど、光と電子を変換する半導体。
・マイクロIC:マイクロコントローラ(マイコン)とも呼ばれ、家電や自動車などに組み込まれる小型制御用IC。
・CHIPS Act:半導体の国内生産強化のために制定した法律で、企業に巨額の補助金を提供する枠組み。
日本市場の動向
かつて日本はDRAMを中心に世界シェア80%超を誇りましたが、現在は10%未満に縮小しています。
しかし今も強みは健在です。キオクシア(旧東芝メモリ)はNAND型フラッシュメモリで世界2位のシェアを持ち、スマートフォンやサーバーに欠かせない存在です。三重県の四日市工場は世界最大級のフラッシュメモリ工場で、研究開発部門を併設しています。
さらに、東京エレクトロン/アドバンテスト/SCREENホールディングス/ディスコといった半導体製造装置メーカーや、信越化学工業/SUMCO/東京応化工業といった半導体材料メーカーは世界シェアトップクラスを誇り、微細加工やシリコンウエハーなどで「日本なくしては成り立たない」領域を支えています。
また、経済産業省が進めるRapidusプロジェクトでは、IBMと協力して2nm世代の国産量産技術に挑戦中です。
※マメ知識:Rapidusとは?
Rapidus(ラピダス)はソニー、トヨタ自動車、デンソー、キオクシア、NTT、NEC、ソフトバンク、三菱UFJ銀行など、日本国内大手企業8社が出資し、半導体の専門家集団が設立した半導体新会社です。日本政府も累計1兆8000億円の支援を行っています。
半導体業界における理工系の仕事
半導体業界では、機械・電気電子・化学・物理・情報といった理工系の幅広い専門分野が必要とされています。それぞれの知識は以下のように活かされます。
・機械系:製造装置や搬送機構の設計、冷却構造や精密加工の機構設計。
・電気電子系:回路設計、デバイス開発、電源設計、制御系設計など幅広く活躍。
・化学系:フォトレジスト、シリコンウエハー、CMPスラリーなどの材料開発。薄膜形成やエッチングプロセスにも直結。
・物理系:半導体デバイスの動作解析、材料物性評価、量子効果を応用した研究開発。
・情報系:EDAツールを用いた回路設計、製造プロセスのシミュレーション、AIを使った歩留まり改善や装置制御。
このように、半導体業界は「理工系が総合的に活躍できるフィールド」です。就職を考える際には、自分の専門をどの工程に活かしたいかを意識することが重要です。
業界の課題
半導体業界は「シリコンサイクル」と呼ばれる景気の波が大きく、好況と不況を繰り返します。1990年代後半から2000年代、そしてリーマンショック後にかけては早期退職やリストラが目立ち、多くの人材が業界を離れるきっかけになりました。
現在は成長分野として期待されており、人材不足が深刻化しています。依然として景気変動や技術革新のスピードは速く、常に世界各国の企業と競争下にあります。そのため安定性よりも「変化に適応できる柔軟性」が求められる業界です。
装置開発からプロセス設計、回路設計、評価・解析まで幅広い分野で理工系人材の採用ニーズが強く、専門性を活かせるチャンスは大きい反面、継続的なスキルアップが欠かせません。
まとめ
半導体業界は、AIやEVなど次世代産業を支える「縁の下の力持ち」であり、世界的に急成長を続けています。日本はかつてのシェアを失いましたが、メモリ、製造装置、素材分野で今も世界をリードしています。
変化が激しいからこそ、「挑戦を楽しめるか」「柔軟に適応できるか」がキャリア形成のカギになります。理工系学生にとっては、専門性を横断的に活かしながら社会を支える技術に関われる、やりがいの大きいフィールドです。