日本のSTEM教育はどうなっている?理系人材を取り巻く変化とこれから

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AIや半導体、ロボティクス、エネルギーなど、これからの産業を支える分野で「STEM人材」への注目が高まっています。日本でも理工系・デジタル系学部を増やす動きや、理系を選ぶ女性を増やす取り組みが進んでいます。

いま理系分野を学んでいる学生にとっても、これから文理選択や進学先を考える高校生・受験生にとっても、自分たちを取り巻く環境がどう変わっているのかを知ることは、進路や学びを考える一つの材料になります。

本記事では、STEM教育の基本から、日本の現在地、理工系学部の拡大や理系女子を増やす取り組みまで、海外の状況とも比較しながら見ていきます。

STEM教育とは?

STEMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字を組み合わせた言葉です。単に数学や理科を勉強することだけではなく、複数の分野の知識を組み合わせながら、課題を発見し、考え、解決していく力を育てる考え方として使われています。

 

例えばロボットを開発するときには、機械工学だけでなく、電子回路、制御、プログラミング、数学などさまざまな知識が関係します。自動運転、半導体、生成AI、再生可能エネルギーなど、現在注目されている技術の多くも同様です。

 

大学で学ぶ数学や物理、情報、機械、電気電子などは、それぞれ独立した学問である一方、社会で技術として使われるときには複数分野が組み合わさることも珍しくありません。

 

近年では、STEMにArt(芸術・教養など)を加えた「STEAM」という言葉も広がっています。技術や社会課題が複雑になるほど、一つの専門を深く学ぶことに加えて、その知識を他の分野とどう組み合わせるかという視点も重要になっています。

 

日本の理数力は世界でも高い

日本のSTEM教育について考えるとき、まず押さえておきたいのが「日本の学生は理数系が苦手だから、理系人材が少ない」という単純な話ではないことです。

 

OECDが2026年9月に公表したPISA 2025では、日本の15歳の平均得点は科学538点、数学525点となり、科学482点、数学463点のOECD平均を大きく上回りました。科学で上位レベルに達した生徒は日本17%に対してOECD平均7%、数学では日本22%に対してOECD平均8%です。

 

さらに、PISA 2025で新たに測定された「計算論的問題解決」でも、日本は557点と参加国・地域の中で世界上位に位置しています。つまり、中等教育段階を見る限り、日本の学生は科学や数学を扱う力で国際的にも高い水準にあります。

 

これは、すでに理系として学んでいる学生にとっても、自分たちが受けてきた理数教育を少し違った角度から見ることのできるデータです。一方で、こうした高い理数力が、そのまま大学でSTEM分野を選ぶ人の多さにつながっているわけではありません。

 

日本のSTEMをめぐる特徴は、「理数力が低いこと」よりも、その力を持つ学生が、その後どれだけSTEM分野へ進んでいるのかにあります。

 

参考:OECD「PISA 2025 Results: Japan」

 

それでもSTEMを専攻する学生は多くない

高校までの理数力が高い一方、大学での専攻を見ると違った姿が見えてきます。OECDの「Education at a Glance 2025」によると、学士課程の卒業者に占めるSTEM分野の割合は、日本では20%。OECD平均は23%です。

 

数ポイントの差ではありますが、日本の中高生が数学・科学で高い成績を残していることを考えると、その力がそのまま大学でのSTEM選択につながっているとはいえません。

 

海外でもAI、半導体、エネルギーなどを担うSTEM人材の育成は重要なテーマとなっています。日本だけが理系人材を増やそうとしているわけではなく、各国が技術人材の育成を進めています。

 

一方、日本では少子化によって大学へ進学する若者そのものが今後大きく増えるとは考えにくくなっています。その中で理系人材を増やしていくには、単純に大学生の人数を増やすのではなく、どの分野で学べる環境をつくるのか、進路の選択肢をどう広げるのかという視点も必要になります。

 

参考:OECD「Education at a Glance 2025: Japan」

 

日本で進む理工系・デジタル系学部の拡大

こうした状況を受け、日本では理工系の学生を増やすため、大学側の「受け皿」を広げる動きが進んでいます。

 

代表的なのが、文部科学省の「大学・高専機能強化支援事業」です。デジタルやグリーンなどの成長分野を担う人材を増やすため、大学における理工農系学部への転換や、情報系学部・研究科の定員拡充などを支援しています。

 

この事業には2022年度の補正予算で3,002億円の基金が設けられ、その後も大学の学部転換や定員拡充への支援が続いています。実際に大学を見ると、近年は「情報学部」「データサイエンス学部」など、新しい学部を目にする機会も増えました。既存学部の改組によって、AIやデータサイエンス、情報技術などを学べるコースを新たに設ける大学もあります。

 

これから大学を選ぶ人にとっては、従来の機械、電気電子、情報、数学、物理といった学科だけでなく、複数分野を横断して学ぶ選択肢も広がっています。

 

また、すでに理系学部で学んでいる学生にとっても、こうした変化は無関係ではありません。情報技術と機械、データ分析と生命科学など、異なる専門を組み合わせる領域が増えることで、自分が大学で学んでいる専門を生かせる場所も広がっています。

 

理系人材を増やすには、学生に理系を選んでもらうだけでなく、「興味を持った分野を実際に学べる環境がある」ことも重要です。大学の学部構成そのものが変わり始めていることは、日本が理系人材を増やそうとしている動きを象徴する一つの例といえます。

 

参考:文部科学省「成長分野をけん引する大学・高専の機能強化に向けた基金による継続的支援」

 

理系女子を増やす取り組みも広がる

日本のSTEMを考えるうえで、もう一つ大きな課題となっているのが男女差です。

 

OECDのデータによると、2023年に日本の学士課程でSTEM分野へ入学した学生のうち、女性は18.5%でした。比較可能な38か国・地域の中で最も低い割合です。分野別では、工学・製造・建設で16.3%、自然科学・数学・統計でも28.8%となっています。

 

海外でもSTEM分野の男女差がなくなっているわけではありません。例えばEUでも、2022年の高等教育STEM分野に占める女性は30.9%です。女性が半数に達しているわけではありませんが、日本と比べると高い割合になっています。

 

こうした状況から、日本では「理系女子」、いわゆるリケジョを増やす取り組みが進められています。2025年時点で、日本の大学工学系学部に占める女子学生は18%。政府は2040年に36%まで高める目標を掲げています。

 

具体的な取り組みも一つではありません。女子中高生が大学や企業で理工系の学びや仕事に触れる機会をつくる、女性研究者や技術者などのロールモデルを紹介する、保護者や教員にも理系進路への理解を広げるなど、大学へ進学する前の段階からさまざまな施策が行われています。

 

JST(科学技術振興機構)の「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」もその一つで、2026年度には全国15拠点で取り組みが実施されています。

 

また、近年目にする機会が増えているのが、大学入試における「女子枠」です。理工系分野を中心に女性を対象とした選抜を導入する大学が出てきています。

 

女子枠についてはさまざまな意見がありますが、その背景には、日本では理数力そのものに男女で大きな差があるわけではない一方、実際にSTEM分野へ進学する段階になると女性が大きく減るという課題があります。

 

「理系に向いているか」だけではなく、どのような進路があるのかを知る機会や、身近なロールモデル、周囲の意識なども進路選択に影響します。理系分野に興味を持つ人が、性別にかかわらず自分の関心をもとに進路を選べる環境をどうつくるか。これは今後の日本のSTEM人材を考えるうえでも重要なテーマになっています。

 

参考:OECD Education GPS「Japan」

参考:内閣府男女共同参画局「共同参画 2026年8月号」

参考:JST「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」

 

まとめ

日本のSTEM教育を見ていくと、「日本は理系が弱い」という単純な姿ではないことが分かります。

 

中高生の科学や数学の力は世界でも高い水準にあります。その一方で、大学でSTEM分野を専攻する学生の割合や、理工系へ進む女性の割合には課題が残っています。

 

現在は、理工系・デジタル系学部への転換や定員拡大、女子中高生への進路支援など、理系分野を学ぶための入口や選択肢そのものを広げようとする動きが進んでいます。

 

そして、理系の学びが生かされる場所も、従来のイメージ以上に広がっています。AIや半導体だけでなく、モビリティ、ものづくり、エネルギー、医療、建設など、さまざまな分野で科学や技術が使われています。大学で学ぶ数学、物理、情報、機械、電気電子などの知識も、それぞれがこうした産業や技術につながっています。

 

これから文理選択や進学先を考える人にとっても、すでに理系として専門分野を学んでいる人にとっても、STEMを取り巻く動きを知ることは、自分が何を学ぶのか、その学びを将来どこで生かせるのかを考える一つの材料になりそうです。

 

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