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2026年7月14日(更新:2026年7月14日)
「理系新卒採用は難しい」と感じていても、その理由まで具体的に説明できる人は意外と多くありません。
難しさの背景を理解することで、採用ターゲットや訴求方法を見直しやすくなります。また、理系採用ならではの施策が必要な理由を、経営層や現場部門へ説明する際にも説得力を持たせられます。
この記事では、求人倍率などの最新データや採用市場の変化を踏まえ、理系新卒採用が難しい理由と、企業が取り組むべき戦略を具体的に解説します。
目次
求人倍率だけでは理系採用の難しさは見えない
理系採用の難しさを考えるうえで、まず確認しておきたいのが新卒採用市場全体の求人倍率です。
リクルートワークス研究所の「大卒求人倍率調査」によると、2027年卒の大卒求人倍率は1.62倍でした。2026年卒の1.66倍からは0.04ポイント低下したものの、企業の採用意欲は引き続き高い状況にあります。
ただし、この1.62倍という数字だけで、理系採用の難しさを判断することはできません。この求人倍率は、文系と理系を含む大卒採用市場全体の数値です。機械系や電気電子系などの専攻ごとの求人倍率や、どの業界や職種から需要が集中しているのかも、この数字からは見えてきません。
参考として、中途採用市場の職種別データを併せて見ると、技術人材に対する需要の強さがより明確に表れています。
dodaの転職求人倍率では、2026年5月の全体倍率が2.44倍だったのに対し、エンジニア(IT・通信)は10.67倍、エンジニア(機械・電気)は5.86倍でした。営業の2.75倍、事務・アシスタントの0.52倍などと比べても、高い水準です。
もちろん、新卒採用と中途採用では採用条件が異なりますが、技術人材の需要が特定の職種に集中していることは、新卒理系採用の難しさを考えるうえでも参考になります。大卒求人倍率1.62倍という全体平均の内側では、専攻や職種によって大きく異なる採用競争が起きていると考える必要があります。
理系採用は一つの市場ではない
企業では、「理系を10名採用する」「技術職を強化する」といった形で、理系学生を一括りにして採用計画を立てることがあります。
しかし、実際の理系採用は一つの市場ではありません。機械系、電気電子系、情報系、化学系、数学系、物理系、建築・土木系では、学んでいる内容や志向性、応募する職種、競合となる企業がそれぞれ異なります。
同じメーカーでも、研究開発、機械設計、回路設計、組み込みソフトウェア、生産技術、品質保証では、対象となる専攻や採用難易度が変わります。職種別採用ではなく技術系総合職として採用する場合も、どの職種や技術領域で人材を必要としているのかを整理しておくことが重要です。
例えば、機械系の学生は、自動車、産業機械、重工、精密機器、プラントなど、幅広い業界から採用対象となります。電気電子系の学生も、半導体、電子部品、通信、ロボットなどのメーカーに加え、電力・エネルギーを含むさまざまな業界から求められています。
特に情報系は、Web・SIerなどのIT企業だけが採用競合ではありません。メーカーの組み込み開発や生産設備のデジタル化に加え、業種を問わず、社内SE、データサイエンティスト、AI・DX関連職などの採用対象となっています。
このような背景から、自社が求める専攻やスキルを持つ学生に、どのような業界・企業がアプローチしているのかを把握する必要があります。そのうえで、競合と比べた自社の仕事内容、技術、製品、育成環境、待遇などを整理し、学生にどのような魅力を伝えるのかまで設計することが重要です。
採用計画では理系全体の目標人数を設定しつつ、実際の採用施策は、専攻や職種ごとの競合環境を踏まえて設計する必要があります。
企業が採用対象を広げ、競争相手が増えている
理系採用が難しくなっている理由は、理系学生の人数だけではありません。技術者不足を背景に、企業が採用対象を広げていることも大きな要因です。
以前は、「機械設計なら機械系」「回路設計なら電気電子系」「化学開発なら化学系」というように、職種と専攻の関係が比較的明確でした。しかし現在では、機械設計職であっても、電気電子系、物理系、化学系などの学生を採用し、入社後の教育を通じて育成する企業があります。
採用時点ですべての専門知識を求めるのではなく、力学、材料、数学、実験、データ解析といった基礎的な素養を評価し、業務に必要な知識は入社後に身につけてもらう考え方です。
こうした動きが広がると、これまで採用競合ではなかった企業同士が、同じ学生を採用対象とするようになります。例えば、化学系の学生を採用したい化学メーカーにとって、機械設計や生産技術の育成枠として化学系を募集する企業も、新たな競合になり得ます。
採用対象を広げることは各社にとって有効な施策ですが、市場全体で見ると、一人の学生に接触する企業が増えることになります。理系採用の難しさは、単純な学生不足ではなく、専攻と職種の境界が薄れ、採用競争の範囲が広がっていることにもあります。
DX・IoTで求められる専攻が変化している
製品や事業の変化も、理系採用の競争を激しくしています。従来は機械構造や機構設計が中心だった製品でも、現在ではセンサー、電子回路、通信、制御、組み込みソフトウェア、クラウド、AIなどの技術が組み合わされています。
DXやIoT、工場のスマート化、製品のデジタル化が進んだことで、これまで機械系を中心に採用していたメーカーが、電気電子系や情報系を積極的に募集するようになりました。
dodaの2026年下半期の転職市場予測でも、電気・機械エンジニアの需要を支える要因として、自動車の電動化や自動運転、SDV、半導体投資、GX(グリーントランスフォーメーション)、工場のスマート化やDX化などが挙げられています。中途市場の動向ではありますが、企業が必要とする技術領域の変化を把握する材料になります。
一方で、学生の学び方も多様化しています。数学系や物理系でプログラミングやデータ解析を学ぶ学生、物理系で力学や電子回路を学ぶ学生、機械系で制御やAIを扱う学生など、専攻名だけでは保有する知識やスキルを判断できないケースが増えています。
企業側も、専攻名だけで対象を決めるのではなく、履修科目、研究内容、実験経験、使用したツールやプログラミング言語などから、職種との接点を見つけるようになっています。その結果、学生が選択できる業界や職種が広がると同時に、企業側の競争相手も増えています。

理系学生を巡る競争は、同じ業界に属する企業だけのものではありません。メーカーが情報系を採用し、IT企業が数学・物理系を採用し、機械設計職が電気電子系や化学系まで対象を広げるなど、業界と専攻を横断した競争へ変化しています。
また、理系学生を歓迎する企業は、ものづくりに関わる企業だけではありません。金融やコンサルティングなどでも、数理的な思考力やデータ分析力を持つ理系学生の採用が進んでいます。
企業が取り組むべき理系採用ならではの戦略
理系採用の市場構造が変化している以上、文系採用と同じ戦略をそのまま当てはめるだけでは、十分な成果につながらないことがあります。専攻と職種の関係、技術理解、現場との連携、待遇水準など、理系ならではの特徴を踏まえて採用活動を設計することが重要です。
① 採用ターゲットを現場と一緒に見直す
「機械設計は機械系のみ」「回路設計は電気電子系のみ」と、専攻名だけで採用対象を限定していないか確認してみましょう。
まずは、現在活躍している社員の出身専攻に目を向けることが有効です。機械設計部門で化学系や物理系の社員が活躍していたり、生産技術や品質保証で幅広い専攻の社員が成果を上げていたりすることもあります。
また、人事が「入社前に必要」と考えている知識でも、技術者や部門長から見ると、「基礎があれば入社後に覚えられる」と判断されるケースは意外とあります。採用ターゲットを見直す際は、現場と話し合いながら「入社時に必要なもの」と「入社後に育成できるもの」を整理することが大切です。
専門的な内容が多い場合や、人事から技術部門へ採用要件の見直しを切り出しにくい場合は、理系採用や技術職に詳しい外部の支援を活用する方法もあります。採用市場や他社事例を踏まえた第三者の視点を入れることで、人事と現場の認識を整理し、議論を進めやすくなります。
② 全職種を一括りにせず、優先する職種を明確にする
複数の技術職を募集する企業では、すべてを「技術職」としてまとめて訴求することがあります。
しかし、機械設計、回路設計、組み込み開発、生産技術、品質保証では、仕事内容も採用難易度も異なります。ひとまとめに打ち出すと、それぞれの仕事の魅力や入社後のイメージ、自分がどの職種で採用されるのかが学生に伝わりにくくなります。
職種別採用を行っている企業で、一部の職種だけ採用に苦戦している場合は、事業上の優先度や採用難易度を踏まえ、特定の職種を強調することも必要です。
例えば、ある食品メーカーでは、製品の知名度や専攻との結びつきから化学・生物系の学生は集まる一方、生産技術で採用したい機械・電気電子系の学生が集まらない課題がありました。学生から見て食品メーカーと機電系職種のつながりをイメージしにくく、求人内でも生産技術の情報が十分に伝わっていなかったことが一因です。
このような場合は、生産技術専用の採用ページを作る、社員インタビューや動画を充実させる、スカウトで生産技術職を前提に声をかける、対象となる大学や理系学科との接点を増やすなど、職種単位で施策を分けることが有効です。職種限定の募集や説明会を設けるなど、採用が難しい職種へ意図的に情報と接点を集中させることが重要です。
③ 専攻ごとに訴求内容を変える
同じ会社や職種であっても、学んできた内容によって、学生が知りたい情報は異なります。
例えば、機械系の学生であれば製品設計や材料、解析、製造工程との関わりに関心を持つことがあります。電気電子系では回路、制御、センサー、通信、情報系では使用言語、開発環境、データやAIの活用方法などが判断材料になることがあります。
ただし、専攻だけで学生の関心を決めつけることはできません。近年は、機械系でプログラミングを学ぶ学生や、物理系で電子回路を学ぶ学生など、学び方や志向も多様化しています。そのため、専攻ごとの傾向を参考にしつつ、履修内容や研究、本人の関心に応じて、「学んだことが仕事のどこで活かせるのか」を具体的に伝えることが重要です。
異分野の学生を採用する場合も、「専攻不問」とするだけでは十分ではありません。どのような知識や素養を活かせるのか、入社後に何を学べるのかまで示すことで、学生が応募を判断しやすくなります。
④ 仕事内容と技術を具体的に伝える
「設計職」「開発職」「エンジニア職」という名称だけでは、実際の仕事内容はほとんど伝わりません。
どのような製品に携わるのか、開発工程のどこを担当するのか、どのような技術や設備を使うのかまで具体的に示す必要があります。例えば、単に「機械設計」とするのではなく、製品の構想設計から携わるのか、部品設計が中心なのか、解析や試作評価まで担当するのかによって、仕事の印象は変わります。
学生がすでに持っている知識だけでなく、入社後に身につけられる技術や、その後のキャリアも伝えることが大切です。現場の技術者に採用ページや説明会へ協力してもらうことで、人事だけでは表現しにくい技術的な魅力も伝えやすくなります。
⑤ 待遇を現在の理系採用市場に合わせて見直す
理系学生の採用競争が激しくなるなか、各社で初任給や手当、福利厚生の見直しが進んでいます。
リクルートワークス研究所によると、2026年4月入社の大学卒の平均初任給は月額23.7万円となり、4年連続で増加しました。初任給や待遇をしばらく変更していない場合、以前は競争力があった条件でも、現在の市場では見劣りしている可能性があります。
確認する際は、新卒全体の平均だけでなく、同じ地域、業界、職種で理系学生を募集する企業の条件を見ることが重要です。基本給に加えて、技術職手当、住宅支援、資格取得支援、奨学金返還支援、配属や勤務地の考え方など、学生が比較する条件を総合的に確認します。
すべての条件を一律で引き上げることが難しい場合は、採用が特に難しい職種を対象に待遇を設計する方法もあります。ただし、職種やコースによって条件を変える場合は、既存社員とのバランスや評価制度も含めて検討が必要です。単純に給与を上げれば採用できるわけではありませんが、現在の市場水準から大きく離れていないかを定期的に確認することは欠かせません。
まとめ
理系新卒採用が難しい背景には、学生数の少なさだけではなく、市場構造の変化があります。
理系採用は専攻や職種ごとに細分化されており、大卒求人倍率の全体平均だけでは、実際の採用難易度を把握できません。さらに、技術者不足を背景に異分野の学生まで採用対象を広げる企業が増え、DXやIoT、製品のデジタル化によって、これまで機械系を中心に採用していた企業も電気電子系や情報系を求めるようになりました。
学生側も専攻を横断して学ぶようになり、応募できる業界や職種が広がっています。こうした環境では、文系採用と同じ施策を繰り返すのではなく、理系採用の特徴に合わせた戦略が必要です。
人事と現場が連携して採用ターゲットを見直すこと、優先する職種を明確にすること、専攻ごとに訴求を変えること、技術や仕事内容を具体的に伝えること、待遇を現在の市場に合わせて見直すことが重要になります。「理系採用は難しい」で終わらせず、なぜ難しいのかを分解することで、自社が優先して改善すべき採用施策も見えやすくなります。
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