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2026年8月8日(更新:2026年8月8日)
新卒採用では初任給の引き上げが続き、理系人材を採用する企業でも給与条件の見直しが進んでいます。
さらに、理系学生の就職先はメーカーだけでなく、IT、コンサル、商社、建設・インフラなど幅広く、採用競争も業界を越えて発生します。今回は、近年の給与動向や企業事例を踏まえながら、理系採用における月給・年収の考え方を整理します。
新卒の給与水準は上昇が続いている
新卒採用における給与水準は、ここ数年で大きく変化しています。
帝国データバンクの初任給に関する調査によると、2026年4月入社の新卒社員について、初任給を前年度から引き上げる企業は67.5%でした。2025年度も71.0%となっており、2年続けて約7割の企業が初任給を引き上げています。2026年度の平均引き上げ額は9,462円。「25万円以上30万円未満」の初任給を設定する企業は17.8%まで増えています。
給与の上昇は、新卒だけに限りません。帝国データバンクの上場企業の平均年間給与に関する調査では、2025年度決算の上場企業の平均年間給与は692.6万円となり、過去20年間で最高額を更新しました。
賞与についても高い水準が見られます。経団連の2026年夏季賞与・一時金に関する集計では、大手企業112社の平均妥結額は100万8,706円となり、第1回集計として比較可能な1981年以降の最高額を更新しました。
製造業99社では平均106万434円となり、前年夏季から1.63%増加しています。初任給だけでなく、基本給や賞与を含めた給与水準そのものが変化しています。数年前に設定した給与条件を継続している場合でも、当時と現在では採用市場における位置づけが変わっている可能性があります。
理系採用では業界を越えた比較も必要
理系人材の給与を検討する際、同じ業界や同じ規模の企業が比較対象になりやすくなります。
一方で、学生側の選択肢は必ずしも同業他社だけではありません。情報系であれば、IT・SIerだけに限らず、メーカーのソフトウェア開発、コンサル、金融など幅広い進路があります。機械・電気電子系でも、自動車、電機、産業機械、半導体などのメーカーに加え、IT、商社、コンサル、建設・インフラなどを選択する学生がいます。
そのため、自社と似た企業だけでなく、採用したい学生がどのような企業を併願しているのかまで含めて給与水準を捉える必要があります。特に情報、AI、データサイエンスなどの分野では、業界を越えた人材獲得競争が起こりやすくなります。
もちろん、すべての企業が給与だけで大手企業や高待遇のIT企業と競う必要はありません。仕事内容、扱う技術、若手に任される範囲、勤務地、働き方、福利厚生なども、学生が企業を比較する要素になります。自社の給与水準が採用市場の中でどの位置にあるのかを把握し、それ以外の魅力も含めて採用条件を設計することが重要です。
理系人材を採用する企業の給与事例
新卒でも初年度から年収500万円を超える給与を提示する企業が見られるようになっています。ここでは、メーカー、IT企業、高度な専門性を持つ人材を対象とした採用の事例を紹介します。
・日立製作所
日立製作所の新卒採用情報では、2026年4月実績として、修士課程卒の月給を31万2,000円、大学学部卒を28万7,000円、高専卒を24万7,000円としています。
さらに、月給12カ月分と標準的な賞与を合わせた「入社初年度の理論年収」も公開しており、修士課程卒は約580万円、大学学部卒は約530万円、高専卒は約460万円です。時間外勤務手当や住宅手当などの諸手当は、この理論年収とは別に支給されます。
また、より職責の大きいジョブへの採用・配置が妥当と評価された場合には、初任給以上の給与を個別に適用する場合があることも明記されています。
・日置電機
日置電機の新卒採用情報では、電気計測器の技術・製品開発として、アナログ回路設計、デジタル回路設計、ソフトウェア設計、機構・筐体設計などを募集しています。
初任給は修士了が月29万6,500円、大学卒が月27万2,500円。2024年入社実績の年収として、修士了520万円、大学卒470万円を公表しています。賞与は年3回で、役割、通勤、ベネフィット、グローバルインセンティブ、子供、単身赴任、販売などの各種手当も設けています。
従業員数は連結で1,153名(2025年12月31日時点)の企業ですが、新卒から年収500万円前後となる給与水準を設定しています。
・ディー・エヌ・エー(DeNA)
IT企業では、さらに高い給与水準を提示する事例もあります。DeNAの新卒採用情報では、2026年3月の給与改定後、AIジェネラリストコースのエンジニア職を標準年収600万円以上、月給46万5,000円以上としています。
AIスペシャリスト職では、標準年収700万円以上、月給54万円以上です。標準年収には月給12カ月分と年2回の賞与が含まれています。一方で、月給には45時間相当分の時間外労働に対する職務給が含まれています。同じ年収や月給でも、基本給、賞与、固定残業代などの構成は企業によって異なります。
・GMOインターネットグループ
特定の高スキル人材に対象を絞り、高い給与を設定する企業もあります。GMOインターネットグループの新卒年収710万プログラムでは、年収710万円を設定しています。
研究開発職では、AIなど最新技術に関する知見、エンジニアとしての開発実績、著名な技術カンファレンスでの登壇、学会での論文採択など、高い専門性や実績を持つ人材を想定しています。給与の内訳は、基本給26万6,000円、40時間分の見込残業手当14万875円、調整手当18万4,800円です。
これらの事例から、高い給与を全新卒社員へ一律に設定する企業だけでなく、採用したい職種や専門性に応じて異なる給与を設定する企業もあります。
給与条件を考える際に確認したい項目
給与水準を比較する際には、月給や基本給だけでなく、賞与、初年度年収、手当なども含めて整理することで、企業ごとの違いが見えやすくなります。
・月給・基本給
新卒求人では月給が大きく表示されることが多く、学生にとっても比較しやすい項目です。一方で、同じ月給30万円でも、すべてが基本給となる企業もあれば、固定残業代や各種手当が含まれている企業もあります。競合企業の条件を見る際にも、月給だけでなく、その内訳まで含めることで比較しやすくなります。
・賞与と初年度年収
賞与の支給回数や水準によって年間の給与は変わります。また、新卒の場合は初年度の賞与が通常年度と異なるケースもあります。
日立製作所の新卒採用情報では賞与を年2回としていますが、4月入社の場合、最初の6月賞与は評価対象期間に在籍していないため寸志となります。こうした点も含め、同社では「入社初年度の理論年収」を公開しています。賞与の比率が高い企業では、月給だけでなく初年度年収も採用情報に掲載することで、年間の待遇を伝えやすくなります。
・住宅手当・家賃補助
住宅関連の制度も、新卒社員の待遇に影響する項目です。日立製作所の福利厚生・給与情報では、住宅手当を最大年間60万円としており、年間12.2万円相当のカフェテリアポイントも設けています。
大学学部卒の入社初年度理論年収は約530万円ですが、月20時間の時間外勤務手当、最大額の住宅手当、カフェテリアポイントを含めた年収例は約660万円です。特に勤務地によって一人暮らしが必要になる場合、住宅手当や家賃補助の有無は実質的な待遇にも影響します。
一方で、住宅関連の手当には適用条件が設定されているケースも多いため、採用情報では対象条件まで分かる状態にすることで、学生も自身に当てはめて考えやすくなります。
・職種に関連する手当
技術職では、企業によって資格手当、役割手当、勤務地・単身赴任に関する手当などを設けているケースもあります。特に建設、プラント、設備、インフラなどでは、業務に関連する資格取得への支援や、資格保有者への手当を設ける企業があります。
すでに自社にこうした制度がある場合は、募集職種との関連性も含めて採用情報へ掲載することで、待遇の特徴を伝えやすくなります。
給与を引き上げる際に考えたいこと
給与水準の引き上げは、採用競争力を高める方法の一つです。一方で、新卒の給与だけを変更すると、既存社員の給与や昇給制度、人件費などにも影響します。採用時の見え方だけではなく、入社後まで含めた給与設計として考える必要があります。
・既存社員との給与バランス
新卒社員の初任給を大きく引き上げると、入社数年目の社員との給与差が小さくなる場合があります。帝国データバンクの初任給に関する調査でも、既存社員より新入社員の給与が高くなる「逆転現象」への対応を課題とする企業の声が紹介されています。初任給を変更する際には、新卒だけではなく、若手社員の給与や昇給幅との関係も含めて設計する必要があります。
・その後の昇給も含めて考える
初任給を高く設定しても、その後の昇給が小さければ、数年後には給与の伸びにギャップを感じる可能性があります。一方で、既存の給与テーブルを維持したまま初任給だけを引き上げると、若手社員との給与差が詰まりやすくなります。初任給だけを切り取るのではなく、入社後数年間の給与推移まで含めて設計することが重要です。
・人件費への影響
初任給の引き上げは、採用人数が増えるほど人件費への影響も大きくなります。さらに、既存社員の給与調整やその後の昇給にも波及すれば、新卒採用だけのコストでは収まりません。市場水準に合わせて給与を見直すことと、継続可能な人件費水準を保つことの両方を考える必要があります。
まとめ
新卒の初任給は上昇が続いており、企業全体の給与や賞与についても高い水準が見られます。理系採用では、メーカーだけでなく、IT、コンサル、商社、建設・インフラなど、業界を越えて学生の選択肢が広がっています。
給与条件を検討する際には、自社の前年実績や同業他社だけでなく、採用したい学生がどのような企業と比較しているのかまで含めることで、自社の現在地を捉えやすくなります。また、月給・基本給、賞与、初年度年収、固定残業代、住宅関連をはじめとする各種手当まで整理すると、企業ごとの待遇差も見えやすくなります。
全新卒社員の給与を一律に変更する方法だけでなく、高い専門性や実績を持つ学生に個別の条件を提示する企業もあります。採用市場の水準、採用したい人材、既存社員とのバランス、自社の人件費などを踏まえながら、自社に合った給与設計を考えることが重要です。
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